研究内容
永妻研究室にはミリ波・テラヘルツ波フォトニクスに関した4つのテーマがあります。
この周波数帯はこれまで発生・検出技術が未成熟であったため未開拓領域とされていました。
本研究室ではこの領域において、コアデバイス技術からシステム応用まで、実用化を見越した幅広い研究を日々行っています。
通信応用グループ
近年、無線通信の普及によって私たちの生活はより便利で豊かなものとなってきました。
しかしその一方で伝送情報量の増大や周波数帯域の逼迫といった2つの問題が生じており、周波数資源の拡大・高速無線通信へのニーズが高まっています。
そこで私たちはテラヘルツ波を通信に用いることで超高速無線通信が実現することを目指し、高速化・小型化・高度化といった3つの点から研究を進めています。
現在では、無線通信において世界最速である30Gb/sのエラーフリー伝送に成功するといった成果をあげております。
- T. Nagatsuma, "Terahertz communications technologies based on photonic and electronic approaches," 18th European Wireless Conference (EW 2012), S13-3 (2012).
- T. Shiode, T. Mukai, M. Kawamura, and T. Nagatsuma,"Giga-bit wireless communication at 300 GHz using resonant tunneling diode detector," Proc. Asia-Pacific Microw. Conf. (APMC2011), pp.1122-1125 (2011).
- "300GHz High-speed wireless communication realized with small device," Tech-On, Nov. 24, 2011.
- "世界初!小型半導体素子(共鳴トンネルダイオード)を 用いてのテラヘルツ帯無線通信に成功," ローム株式会社ニュースリリース, 2011年11月21日.
- T. Nagatsuma, "Extreme bandwidth wireless communications using terahertz waves," 20th International Conference on Applied Electromagnetics and Communications (ICECom 2010), Sept., 2010.
イメージング応用グループ
イメージングとは、試料の内部などにおける情報の測定を行い、画像化・視覚化することです。
テラヘルツ波の高い透過性、システム小型化が可能であること、またX線に比べエネルギーが低く人体への影響が少ないことといった特性から、新しい非破壊・非接触イメージングとして、テラヘルツ波のイメージングへの応用・実用化に期待が寄せられています。
また、テラヘルツ波よりも透過率が高いミリ波を用いたイメージングにおいても、コンクリートや木造建造物内部の亀裂の観測といった多大なニーズが存在しています。
本研究室ではこのテラヘルツ波・ミリ波の両領域において、広帯域光源・干渉計を利用した光コヒーレンストモグラフィに世界で初めて成功しており、更なる高性能化に向けた研究を行っています。
- T. Ikeo, T. Isogawa and T. Nagatsuma, "Three dimensional millimeter- and terahertz-wave imaging based on optical coherence tomography," IEICE Transactions on Electronics, to be published.
- T. Isogawa, T. Kumashiro, H.-J. Song, K. Ajito, N. Kukutsu and T. Nagatsuma, "Tomographic imaging using photonically generated low-coherence terahertz noise sources," IEEE. Trans. THz Science and Technology, vol. 2, No. 5, pp.485-492 (2012).
- T. Ikeou, T. Isogawa, K. Ajito, N. Kukutsu and T. Nagatsuma, "Terahertz imaging using swept source optical-coherence-tomography techniques," Proc. Int. Topical Meeting Microw. Photon. (MWP), (2012).
THz波 分光・計測応用グループ
分光とは、測定対象に電磁波を照射し、その反射や透過した電磁波のスペクトルを観測することによって被測定物質の特性を調べるものです。分光法としては赤外分光法(赤外線を照射)などがありますが、最近注目されているのが電磁波としてテラヘルツ領域(300GHz~3THz)を用いた分光法です。
物質にはそれぞれ指紋スペクトルと呼ばれる物質固有の吸収スペクトルがあります。医薬品や爆薬、麻薬などの物質において、テラヘルツ領域ではその他の領域と比較してその指紋スペクトルが顕著に表れるため、それらの物質の同定に大変有効と考えられます。
テラヘルツ領域を用いた分光法としては、パルスを用いたテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)が主流となっていますが、パルスを発生させるためのレーザなどは空間的・経済的に効率がよくありません。そこで我々のグループではより安価で簡便性に優れた連続波(CW)を用いたシステムの構築を目指した研究を行っています。
- S. Hisatake and T. Nagatsuma, ''Continuous-wave terahertz field imaging based on photonics-based self-heterodyne electrooptic detection,'' Opt. Lett., vol. 38, No. 13, pp. 2307-2310 (2013).
- S. Hisatake, G. Kitahara, K. Ajito, Y. Fukada, N. Yoshimoto,and T. Nagatsuma, "Phase-sensitive terahertz self-heterodyne system based on photodiode and low-temperature-grown GaAs photoconductor at 1.55 μm," IEEE Sensors Journal, vol. 13, pp. 31-36 (2013).
- S. Hisatake and T. Nagatsuma, "Nonpolarimetric technique for homodyne-type electrooptic field detection," Appl. Phys. Express, vol. 5, 012701(2012).
コアプラットフォームグループ
テラヘルツ波帯は、発生・検出技術の進歩により、様々な技術への応用が期待されています。
しかし、現在のテラヘルツ波システムは構成される各コンポーネントが大型・立体構造となっており、小型・集積化は困難なため、汎用化の妨げとなっています。
そこで我々は、テラヘルツ波システムの小型・集積化を目指し、フォトニック結晶技術に注目しています。
フォトニック結晶とは、電磁波の波長と同じオーダーで変化する周期的屈折率分布を持った人工結晶のことです。
このフォトニック結晶を用いた平面かつ薄型の「テラヘルツ波集積回路」、「テラヘルツ波吸収体」の実現に向けて研究を行っています。
- T. Ishigaki, M. Fujita, M. Nagai, M. Ashida and T. Nagatsuma, "Photonic-crystal slab for terahertz-wave integrated circuits," IEEE Photonics Conference 2012 (IPC2012), pp. 774-775 (2012).
- R. Kakimi, M. Fujita, M. Nagai, M. Ashida and T. Nagatsuma, "Trapping a terahertz wave in a photonic-crystal slab," IEEE Photonics Conference 2012 (IPC2012), pp. 562-563 (2012).